京都工芸繊維大学美術工芸資料館

京都工芸繊維大学

京都・大学ミュージアム連携

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Kyoto Institute of Technology

「大学美術館を活用した美術工芸分野新人アーティスト育成プロジェクト」

小倉智恵美/OGURA Chiemi

◎インタビュー

【2014年】

「未来の途中」展のご自身の展示を振り返って、どう思われますか?

昨年度の「未来の途中」展は私にとって、作家として取り上げて頂き参加する初めての大きな展覧会でした。そのため、皆様に私の作風や制作姿勢をお伝えしたく、これまでの10年間にしてきた仕事をまとめ、展示させて頂きました。 ここではそれら作品の中から3点を抜粋してご説明したいと思います。

白竹食籠「のどか」

《白竹食籠「のどか」》

多くは陶器や漆器である食籠ですが、竹工芸の編み模様を生かして作りたいと考え、制作しました。嵯峨菊模様と呼ばれる編みを用いています。これは麻の葉編みという正三角形の連続から成る編みに後からヒゴを差して作る菊の花のような模様です。はじめ平面に編んだプレートをこの作品のために作った型に沿わせて曲げ、蓋と身の形状を作っています。
可愛いらしい印象を持つ嵯峨菊模様が、なだらかな曲線を得たことで、全体に温和なイメージを醸す作品になったかと思います。

華籠

《華籠》

寺院からのご注文によりお作りしたものです。華籠とは、寺院での散華という法要の際に、蓮の花びらを象った紙を盛る皿状の器物です。表側と裏側2種類の編みを重ね、できているのですが、依頼主の「オリジナルの凝ったデザインのものを作りたい」というご意向から、表側部分は通例使われているものよりも複雑な編み方を用いました。裏側は華籠特有の花を模した編みを使用しています。見る角度によっては表側から裏の編みが透け、より複雑な造形を見せます。

バングル

《バングル》

最も新しい作品です。伝統工芸の技術を守り、伝えていくことは大切なことですが、作品が今の生活の中で求められているものでなければ、守る意味合いも薄れ、現実的に残していくことが困難になります。そのようなことから、幅広い消費者層に訴えかけるようなものをと、現在、デザイン事務所のアドバイスを受けながら作っているのが、アクセサリーのシリーズです。このバングルは、竹工芸の伝統的な編み模様や籐かがりが持つ美しさを生かしながらも、今のファッションに馴染むことを考えてデザインをしています。カラーコーディネートに配慮し、今までの竹工芸になかった色みも染めの研究から実現しました。竹細工の特徴である軽さやしなやかな造形は、装身具にとてもふさわしく、今後も研究を続けていきたいと思っています。

展示風景

《展示風景(未来の途中−美術・工芸・デザインの新鋭12人展)》2013年

「あれからの、未来の途中」展にはどのような作品を出品されますか?

今年度の展覧会では、ペンダントライト(照明器具)と新作のアクセサリーを出品する予定です。ARTZONEという会場、また現代美術の中西瑞季さんと同室の展示ということから、より新しいイメージの竹工芸作品をお見せしたいと思っています。
ペンダントライトは洋室で使って頂くことを考え、デザインをしています。伝統的な竹工芸のイメージでは、和室の方がしっくりと馴染むことと思いますが、それを脱することも一つの目標です。花の持つ美しさへの憧れから、ユリやカラーなどの形を模して作ることにしました。竹籠にあまり見られないような構造にも挑むこととなります。
アクセサリーは、昨年度出品のバングルを発展させ、チェック柄など、より色に楽しさのあるバングルを作ります。また、いくつかの編み目を組み合わせて見せるチョーカーなども出品したいと思っています。
昨年度からご一緒している中西瑞季さんが描かれる絵の洗練された雰囲気にもインスピレーションを受けて制作を進められそうです。貴重な出会い、発表の場を頂けて感謝しています。

【2013年】

《白竹牡丹透かし模様盛器》2013年

小倉さんは、どういう経緯で竹工芸を手がけられることになったのですか?

私はもともとは、籠が好きでした。籠はかわいいし、便利だし、自然素材で作られていると暖かみもありますよね。 またそれとは別に、環境保全にも興味があって、ずっと関心を持っていたのですが、竹は成長が早く、環境に優しいということをあるとき知りました。 そうした関心が合わさって、竹工芸をやろうと決め、京都伝統工芸専門学校(現在は大学校)に入学しました。
竹工芸と一言で言っても、さまざまな作風があります。たとえば荒物といって、躍動感を持たせて竹を編んでいく技法もありますが、私は繊細で美しい作品を好んで作っています。 中でも「差し六ツ目」と呼ばれる技法を得意としています。 差し六ツ目は、まず六ツ目編みなどの正六角形や正三角形から構成される編み方をし、後から細く薄く作った材料を差すことで花のような模様を作る技法です。 刺繍をするように材料を差すので、材料作りにも精度が求められます。

工芸の職人さんの中には、依頼を受け、依頼内容に合わせて作品を作る方もいらっしゃいますが、小倉さんはいかがでしょうか?

私も学校卒業間もない頃は特に、そういった仕事を主にして作っていました。 昔作られた竹籠を参考にしたり、そこに自分なりの工夫を加えたりしながら、依頼に沿う作品をお作りし、たくさんのことを学んだ気がします。 一方で、一から自分でデザインし、作品を作ることもずっと続けてきました。近年ではそういった制作の割合も増えました。 材料の幅や編み目のサイズがほんの少し変わるだけでも、作品の雰囲気は変わってしまいますから、自分のデザインに最適な方法を選び、出来る限りの美しい作品を作ろうと思って作っています。

「差し六ツ目」作業過程

とすると、小倉さんは早い時期からお一人で作品を作ってこられたのですか?

そうですね。職人さんには、家業を継いでされている方や弟子入りをされている方も多いです。 しかし私の場合は、家業として竹工芸をやっていたわけではありませんし、学校を卒業してからは、共に働き指導をしてくれるような、師匠と呼べる立場の方がありませんでした。 ですので、私は周囲の人に支えられながらも、多くは自分一人で判断、決断をし、自身の作品作りをして道を切り開いてきました。
しかし、だからといって自分が一人前であると思っているわけではありません。 作品を見て、気になるところ、もっとこうすれば良かったと思うところは、いつだってあります。 作品のクオリティについては、どこかで満足できるわけではなく、一生追い求めていかなければならないでしょう。 でも、そうであっても、私は自分の作品をお客様に買っていただいているわけで、そう考えると、自分がそのときにできる最善のことをやらなければならないと思っています。 言いかえれば、常に職人という仕事を全うしなければならないと考えているのです。

《白竹花模様茶托》2009年

その職人という仕事の中身について、もう少し詳しく教えていただけますか?たとえば職人とアーティストはどう違っていると思いますか?

伝統的な素材や技法を使っている方の中にも、私が見て「アーティスト」の仕事のように見える作品を作られる方もいらっしゃいますから、 単に素材や技法という点で、職人とアーティストは区別できないように思います。むしろ、両者は表現するということに対する態度が違っているのだと思います。
私の作品は先ほど言ったように私自身がデザインをして作っていますから、私自身の個性が出ていると思います。 ただ私が追求しているのは、竹の編み方の美しさであったり、使用するときの便利さであり、美しく便利な作品を作るための技術を追求していきたいと思っています。 職人の態度とは、そのようなものではないかと思います。 一方、作品の中に何かのメッセージ性や作者の私的な思いが入っていて、鑑賞者の方が作品からそうしたものを感じ取るということが存在したら、それはアーティストの仕事ということになると思います。

《華籠》2008年

小倉さんは、職人的なあり方を追求していきたいと考えていらっしゃるのですよね?小倉さんにとっての理想的な職人像とはどういうものでしょうか?

いまはまだ具体的なイメージを持てているわけではないのですが、ひとつの理想として、高い技術を持った職人像があげられると思います。 たとえばどこかから依頼を受けたとして、その依頼をしてきた方の望むものを素早く、美しく作ることができるような技術力を持っていることが理想です。
そうした職人になるためには、たくさん仕事をこなしていくことが必要だと思います。新しいことに挑戦をしていくと、必ず発見があります。 むしろ、挑戦していかないと、何も学べないように思います。ですので、常に新しいことに挑戦をしていき、その時々で技術を得ていきたいと思っています。 職人として成長するために、そのようなことが必要だと考えています。
私は、いまこの時代に生きているからこそ、出来ることをしたいと思っています。 決まったレールの上を歩むのではなくて、挑戦をしていきたいのです。 世の中にはいろんな方がいろんなお仕事をされていて、みなさんそれぞれに、いろんな趣味嗜好を持っていらっしゃいますよね。 そして、そういったいろんな方たちは、それぞれにいろいろなことを求めていらっしゃいます。 私はそういった様々な需要と関わりながら、自分の中で挑戦を続けていきたいと思っています。そうすることが、私にとって楽しいことですし、またやりがいのあることだと感じています。

◎プロフィール

経歴

1982年

神奈川県生まれ

2004年

京都伝統工芸専門学校(現・大学校)竹工芸専攻卒業

主な展示会

2010年

  • 「京・KYO -たしなみ・お茶を遊ぶ」 日本橋三越(東京)
  • 「京の竹芸家展」 燗屋京都店(京都)

2013年

  • 「京都コレクションショップ」 燗屋京都店(京都)

2014年

  • 「パリ・ジャパンエキスポ」ノールヴィルパント展示会場(パリ)