《海獣葡萄鏡》
最初に、山本さんがどのようなものを作っていらっしゃるのか、教えていただけますか?
青銅鏡や白銅鏡といった銅鏡を作って神社やお寺に納めるというのが主な仕事です。そのほかにも最近では、鏡の修復なども手がけています。
作業としては、まず砂と粘度と珪砂で鋳型を作ります。鏡の模様は銅を彫ったり、貼付けたりすることで作っているかのように思われるかもしれませんが、そうではありません。
型を取ることで作っています。具体的には、へらを使って鋳型に模様を彫り、そこに合金を流し込み、模様を作っているのです。
そうやって模様を成型した後は、表面、つまり鏡面の方を削る作業になります。
ヤスリなどを使って研いでいくのですが、ヤスリで研いでいくとヤスリの線が残ってしまいますから、砥石や炭などを使い、何度も削ることで線を消していきます。
そこまでが僕がやっている作業です。鏡面部分にはメッキ加工を施すのですが、その作業については、うちでは外注をしています。
鏡の模様は、神社やお寺からの指定があるのですか?
そうですね。神社やお寺からの依頼のされ方は様々です。 「伝統的な模様で作ってほしい」という依頼もあれば、「鳳凰を使ってもらってもらえればいい」や「うちのお寺はこの花が有名だから、その花をモティーフに使ってほしい」という依頼もあります。 依頼の内容によっては新しい模様を作る場合もあり、そういう場合は絵師の人に図案を作ってもらって、依頼してくださった方と相談しながら模様を決めます。
ヘラによる鋳型の成型作業
模様を成型する作業は、どれぐらいかかるのですか?
鏡の大きさによって変わってくるのですが、鋳型を作る作業だけで1ヶ月から2ヶ月ぐらいですね。 先ほど言ったように、鋳型自体がそのまま模様になるわけではなくて、鋳型に合金が流すことで、模様を作ります。 ですので、鋳型だけを見ていても実際の模様のことは分からないんですよ。 だから、鋳型をどれぐらい掘れば、どういう厚さが出来て、どういう線が出るのかなどをイメージしながら作業していかないといけません。そういうわけで、成型作業は少しずつしか進んでいかないんですよ。
しかも鋳造してみないと、実際に模様がどのようにできているのか、分からないのですよね?
ひとつの鏡を作るために、彫り方を変えた鋳型をいくつか作っておいて、鋳造してみて一番出来がいいものを選んだりします。
また、鋳造し終わって、鏡を鋳型から取り出すときには、鋳型を壊さなければなりませんから、どのような鋳型を作ったのかを覚えておくか、
もしくは写真などで撮影してするなどして、自分の中にデータをためていかないといけません。
僕の師匠ぐらいのレベルになると、鋳型をこれぐらいで掘れば、これぐらいの模様が出来ると分かるのですが、そうなるには20年〜30年はかかると言われています。
つまり、30年ほどの経験を蓄積しないと、模様の成型については分からない、と。
そうですね。とにかく数をこなすというのが必要です。ただ、経験を蓄積をしていくためにも、とりあえずいまは情報の発信をやるべきだと考えています。 いま、鏡や鏡作りについては、あまり知られていないように思います。 だからまず、こちらから情報発信し、鏡と鏡作りのことを知ってもらい、興味を持ってもらう必要があります。 そうやって興味を持ってもらえれば、次の仕事につながっていくのではないか、と。 そういう作業を、あと何年間か続けていき、その後、じっくりと腰を据えて仕事をして、もっと良い仕事をしていきたいと思っています。
《蓬莱文手鏡》
山本さんは、その「もっと良い仕事」とは、具体的にどのようなイメージでしょうか?山本さんご自身の個性をもっと出すということですか?
いえ、そうではありません。そもそも個性というのは、どんなに習熟した作家でも、必ず出てしまうもので、個性をなくすということは難しいと思います。でも、僕たちは職人ですから、神社やお寺からの依頼に対して、自我を強く出す必要は全くありません。依頼してくださる方たちにももちろん好みはありますが、古来から作られてきた伝統的な鏡に近いものが作れたらいいのではないか、と思っています。依頼に対して個性ではなく、技術力で応えるというのが職人だと思いますし、僕の理想もそこにあります。
ただ最近は、伝統の技を守っていくことや、自分自身の技術を高めていくこととは別に、個性を出していくことも、大切だと思っています。工芸の分野では既に、伝統的な技術を使って現代社会にあう製品を作るということをやっていますが、さらに「表現する」ということをもっとやっていってもいいのではないでしょうか。簡単に言えば、自分の中にあるものを反映させたもの作りです。個人的には、そうした分野にも今後挑戦していきたいと思っています。
《Rainbow》
「未来の途中」展には、そのような「表現する作品」も出品されるのでしょうか?
今回の展覧会には、伝統的なかたちの鏡、現代的なかたちの鏡、そして「表現する」作品を出品します。伝統的なものが過去、現代的なものが現在、そして「表現する」作品が未来、という具合に分けて、過去・現在・未来を出品したいです。「表現する作品」では、たとえば人の二面性や裏表をテーマとした、両面を鏡面にした鏡を作ろうか、と。そういった自分が作るものの中に、社会に対するメッセージ性を含ませた作品を展示したいと考えています。
さらに今後は、映像などを使って、そのメッセージや作品を成り立たせている技術などをきちんと伝えるプレゼンテーションの方法についても考えていきたいです。いまの社会では、「良いもの」を作ったとしても、その「良さ」を伝えるのが難しいですよね。それはきっと、アートでも一緒だと思います。僕は伝統的な鏡と「表現する」作品のどちらも大切だと思いますが、どちらを手がけるにしても、きちんと人に伝えていきたい。だから映像などを使って、作品を見てもらうだけでは分かりづらいことを伝えるための方法を模索していきたいと思っています。
1975年京都生まれ。
国内で唯一、和鏡・神鏡・魔鏡を手仕事で製作する山本合金製作所に生まれる。
大学卒業後、家業に入り、祖父山本凰龍に師事して伝統技法を受け継ぎ全国の神社の御霊代鏡や御神宝鏡の製作や、博物館所蔵の鏡復元等に携わる。
プライベートな制作活動の ay alloy works では、人とヒトを繋ぐモノ作りを目指す。