京都工芸繊維大学美術工芸資料館

京都工芸繊維大学

京都・大学ミュージアム連携

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Kyoto Institute of Technology

「大学美術館を活用した美術工芸分野新人アーティスト育成プロジェクト」

来田広大/KITA Kodai

◎インタビュー

遊子 ―drawing field

《遊子 ―drawing field》 2008年 Photo: Hideaki Toyoura

来田さんは近年、チョークによってイメージを描く作品を手がけられていますよね。美術作家として活動をはじめた最初のころから、チョークを用いていたのですか?

いま振り返ると、「これが自分の作品だ」と言える作品をはじめて作ったのは、大学2年生のときでした。当時、感覚的に絵を描くことが難しかったので、絵を描く以外の方法で作品を作ろうと試行錯誤していたのですが、あるとき自分の思い出の中にある「遊び」をモティーフにして作品を作ろうと思いつきました。たとえば子どものころ、水風船を使って戦争ごっこをやったことがありましたが、水風船の中に絵具を入れて、戦争ごっこをしている様子と地面に残る痕跡とを映像で記録し、作品を作ったのです。
この作品以降、「遊び」をモティーフにした作品をシリーズ化したいと思い、大学2年生のときから、チョークを使うようになりました。子どもが道路にチョークで落書きするのと同じように、チョークを用いれば、地面に絵画性を持たせることができるようになり、また自分の身体の痕跡を残すこともできます。大学3年時に留学したメキシコでも、自分の滞在した場所の床面にチョークで痕跡を残す作品を制作しました。
このメキシコ留学を含め、大学院卒業後には北アルプスや福島などに滞在するなど、僕はいろんな場所で制作をしてきました。いわば自分の滞在場所でフィールドワークをしながら絵を描いてきたわけです。そのような方法を採るとき、チョークを用いるのはとても理にかなっているように思えます。

Bird’s-eye view

展覧会『Bird’s-eye view』(Gallery PARC、2013年9月)展示風景

では、チョークを用いて具体的にどのような作品を作られてきたか、説明いただけますか?チョークの作品を2013年から2014年にかけて3つの展覧会で出品されていますよね。それぞれについて説明いただけますか?

まず2013年9月にGallery PARCで開催した『Bird’s-eye view』の出品作品について説明します。この個展では、大きく分けて2種類の作品を出品しました。ひとつは、たとえば北アルプスなど、自分がかつて実際に登ったり見たりしたことのある山を俯瞰したイメージを描いた作品で、もうひとつは、ある場所に立ち、そこからぐるりと360度見渡した山並みを描いた作品です。

Bird’s-eye view#1

《Bird’s-eye view#1》 2013年  Photo: Kazuki Yoshimoto

前者の山を俯瞰した作品は、Google Earthなどの画像を見て描きました。とはいえ、画像を見て描くのは初めだけで、後はフリーハンドで描いています。ですので、実際は特定の山や場所を描いているわけではありません。個人的には、架空の地図を作っている感覚に近いです。またこのときは、床にパネルを置き、チョークとコンテを使って描いていったのですが、それはチョークで道路に落書きをする感覚にも近かったです。パネルを壁やイーゼルにかけて絵を描くと、どうしても上下左右の感覚が出てきて、その中でバランスを取ろうとしていまいます。床で描いたのは、そういうバランス感覚を排除したかったという理由があります。

Landscape of 360 °

《Landscape of 360 °》2013年 Photo: Kazuki Yoshimoto

一方、山並みを描いた作品については、もともと、山に登った時に自分が住んでいる町を眺めるのが好きだったことと関係しています。山の上からは、ふだんとは違った見方や感覚で町を眺めることが出来ます。上手く言えないのですが、人のある場所に対する認識であったり、ある場所から覚える感覚であったりは、一方向から成り立っているのではなく、その場所をいろんな方向から眺めることで出来上がっているように思います。だからこの絵は、ある場所の認識に関わるものだと考えています。こうした絵は、中国の昔の絵画にもあります。その絵はたぶん散歩しながら描かれたのでしょう。視点が動き回る絵。西洋のキュビズムにも繋がる消失点を持たない絵を、僕も描きました。

Mt.Fuji

《Mt.Fuji》2014年 Photo: Kazuki Yoshimoto

月見草 #1

《月見草 #1》 2014年  Photo: Kodai Kita

次に、2014年6月に福島のギャラリー昨明で開催した個展「FUGAKU HYAKKEI」についてお話しします。この展覧会のタイトルは太宰治の小説『富嶽百景』からとっています。太宰は『富嶽百景』の中で、道端に咲く可憐な月見草と富士山とを対比して「富士には月見草がよく似合ふ」と記しましたが、この展覧会では、そうした身近なささやかなものと遠くにある大きなものとを結びつける想像力をテーマにしました。
ギャラリー昨明は2階建てのギャラリーで、1階部分が吹きぬけになっているのですが、1階に富士山を俯瞰した絵を床置きし、2階には月見草を描いた作品を展示しました。このときに扱った「月見草」というモティーフは、続く作品においても用いています。

on the rooftop somewhere

《on the rooftop somewhere》2014年 映像部分

ギャラリー昨明の個展のあと、2014年8月に「Art Point Iwaki玄玄天 gengenten」というグループ展に参加し、《on the rooftop somewhere》を出品しました。この作品は簡単に言えば、チョークで建物の屋上に目いっぱいドローイングをするという作品です。先に言ったとおり、モティーフとしているのは月見草です。月見草というささやかな存在を大きく描くことによって、遠くに思いを馳せるための作品を作りたいと考えました。
ドローイングを行なったのは京都と福島の見晴らしの良い場所でしたが、敢えて場所は明示していません。どこの建物か特定しない方が、それぞれの鑑賞者の私的な記憶と結びつきやすいと思えたからです。いまの自分たちが生きている「ここ」と、どこか遠くにある「そこ」。その両者の間に同じ時間が流れていることを感じて欲しいと思っています。

それでは、「これからの、未来の途中」展の出品作品についてご説明いただけますか?

二つの異なる方法で制作した作品を出展します。ひとつは、京都と滋賀の県境に位置する比叡山をモティーフにした『Bird’s-eye view』。遥か上空から見下ろした比叡山の鳥瞰図と、比叡山の頂上から360°の風景を撮影した写真を基にした風景画です。ともにチョークで描いたタブローです。
もうひとつは、建物の屋上の床にチョークでドローイングをした記録映像の《on the rooftop somewhere》。最近京都のある場所で行った新作と過去作を合わせ全部で3つの場所のものを編集して一つに繋ぎ合わせたものです。その場所に流れる時間と、ドローイングをしている行為が一緒に記録されています。展覧会の会期中、屋上ではありませんが美術工芸資料館周辺でもこのドローイングを行おうと考えています。
この2種類とも、描かれている対象そのものより、その先の情景や「ここ」と「そこ」にある距離のようなものを意識した空間を表出できないかと考えています。

◎プロフィール

経歴

1985年

兵庫県生まれ

2010年

東京藝術大学大学院美術研究科修士課程油画技法材料修了

主な個展

2011年

  • 「来田広大展」ギャラリー昨明(福島)

2012年

  • 「Drawing birds-eye view」MU東心斎橋画廊(大阪)

2013年

  • 「Birds-eye view」Gallery PARC(京都)

2014年

  • 「FUGAKU HYAKKEI」ギャラリー昨明(福島)
主なグループ展

2007年

  • 「メキシコへの道」ギャラリー昨明(福島)

2008年

  • 「CAAF2008/24+6」クレアーレ青山アートフォーラム(東京)

2009年

  • 「Arakawa Art Action 2009」(東京)
  • 「赤倉アカデミーインレジデンス2009」赤倉温泉(新潟)

2010年

  • 「IWAKI ART トリエンナーレ2010」(福島)

2013年

  • 「紙技東京」HIGURE 17-15 cas(東京)
  • 「紙技京都2013」京都国立博物館 茶室「堪庵」(京都)
  • 「Art meeting 2013 / 田人の森に遊ぶ」(福島)

2014年

  • 「見ること・描くこと ―油画技法材料研究室とその周縁の作家たち」
    東京藝術大学大学美術館(東京)
  • 「Fukushima Art Point Iwaki 玄玄天-gengenten-」(福島)
その他

2008年

  • 「東京藝術大学卒業制作展」O氏記念賞(大橋賞)

2012年

  • 「紙技百藝2012」大賞