展覧会アーカイブ|Exhibition Archives

2012.5.21 - 2012.7.6

2012年度学芸員資格科目「博物館実習」
企画展1 アール・ヌーヴォー 自然へ回帰する女性
Ladies and Nature

  アール・ヌーヴォーは19世紀末から20世紀初頭にかけて西欧諸国を中心に展開した芸術運動です。当時のヨーロッパでは、効率化を図り生産が機械化され、物が大量につくられていました。また、都市部では工業化による環境破壊が進み、やがて職人の創造に対する喜びは取り上げられ、人々の物への愛着は薄れていきました。その中で人々は以前の素朴な田園生活に憧れを抱くようになり、“物への心からの愛着”、“自然に対する尊敬”という中世の精神に立ち返り始めました。

  アール・ヌーヴォーの特徴として、植物と女性がモチーフとして多用されることが挙げられます。植物は、種子が発芽し、成長し、花開き、やがて新しい種子を育みます。それは、生命の流れの根源的原理とされていました。また一方で、新たな生命をその身に宿すという点で、女性も同様な存在とされていました。これらは、互いに影響し、時には共に用いられることもありました。

  まず第一章では、アール・ヌーヴォーにおける動植物をモチーフとした、代表的な作品をご紹介します。第二章では、女性をモチーフとした作品を集めました。身体やその動きの有機的な曲線に注目してみて下さい。最後の第三章では、自然への強い憧れが女性に重ね合わされている作品を展示しています。

  当館が所蔵する代表的なアール・ヌーヴォーの作品を中心に構成しています。この時代の自然への考え方を通して、日々の生活にある自然の魅力を感じるきっかけになれば幸いです。

企画展2 亀倉雄策の表現した日本
Japan is here

  亀倉雄策は、戦後の日本を代表するグラフィックデザイナーである。その力強く明快なデザインは、世界的に高い評価を受けている。線や面の構成による抽象的なデザインをはじめ、写真なども積極的に用い、優れたポスターを制作した。それらは見る人々に強い印象を与える。
  亀倉が活躍した戦後の日本は、敗戦から復興を果たした日本を欧米にアピールする東京オリンピックや大阪万博博覧会などの国際的な行事が多くあった。亀倉は欧米が求めるエキゾティックな日本のイメージではなく、彼自身が考える日本らしさをグラフィックデザインのなかで表現しようとした。日本古来の色彩感覚や日本庭園、工芸品や紋章などから着想を得てそれらの要素を分解し、亀倉的に再構築され洗練されたデザインが生まれた。今回の展覧会ではそのような亀倉雄策が日本を世界にアピールするためにつくったポスターを集めた。

  今回の展示では亀倉雄策の表現した日本を4つのセクションに分けて紹介している。
  第1セクションでは、日本の伝統的な自然表現を参考にしたポスターを集めた。古くから日本で使われてきた山水の表現を亀倉がどのように解釈し、自身のデザインに応用したかがわかりやすいと思う。
  第2セクションでは、黒・金・赤という日本的色合いを用いたポスター作品を集めた。これらの色の組み合わせは日本の漆工芸品を連想させるものなので、美術工芸資料館所蔵の蒔絵硯箱と漆塗りの経机とあわせて展示した。
  第3セクションでは、有名な東京オリンピックのポスターを中心に亀倉が関わったオリンピックポスターを集めた。敗戦から復興へと向かう時代背景の中で、亀倉がオリンピックポスターを通してどのように日本をアピールしようとしたかを見て頂きたい。
  最後に第4セクションでは、「燃え落ちる蝶/ヒロシマ・アピールズ」を中心に蝶のモチーフを扱ったポスターを集めた。亀倉が日本の伝統的な文様である蝶というモチーフをデザインの中でどのように使ったかを見て頂く。
  今回は亀倉雄策が編集した雑誌「Creation」や亀倉のデザインしたロゴマークなども展示する。ロゴデザインにも日本の家紋を意識したような作品が見られるように、デザイナー亀倉雄策が日本の伝統的表現とどのように向き合ったかを見て頂き、また彼の直線や曲線を用いた幾何学的な力強いデザインの奥に日本らしさを感じ取って頂きたい。

※この展示は2012年度学芸員資格科目「博物館実習」の一環として企画されました。